事業用自動車の乗務員(運転手)
トラックやバスなど、事業用自動車の乗務員(運転者)の選任には一定の決まりがあります。
乗務する事業用自動車に必要な免許を保持していることは当然として、それ以外にも様々な決まりがあり、それをクリアして初めて乗務員(運転手)として選任されるのです。
選任してはいけない雇用形態
バスの乗務員(運転手)については、旅客自動車運送事業運輸規則第36条に、旅客自動車運送事業者が乗務員(運転手)として選任してはならない雇用形態について書かれています。
トラックについては、貨物自動車運送事業輸送安全規則第3条に同様の禁止事項が記載されています。
どちらにも共通して書かれている禁止事項は次のとおりです。
②二月以内の期間を定めて使用される者
③試みの使用期間中の者
(14日間を超えて引き続き使用されるに至った者を除く)
まず1番については問題なく理解できると思います。
日雇いの人を雇ってはいけませんよ、と言うことです。
この場合の『日雇い』とは、雇用関係が24時間以内で発生・解消されるものを指します。
短期間雇用される労働者がなぜ敬遠されるかというと、要するに不安定な労働環境に置かれた者を乗務員(運転手)に選任することで、運行の安全が確保されない状況を回避したい意図があるのです。
『短期間雇用=責任感も薄い』と考えられているのでしょう。
日給制度を否定するものではない
『日給月給の給与体系はNGですか?』
当社でサポートさせていただいているお客様からの質問だったのですが、結論から言うと問題ありません。
さすがに給与の日払いはダメなのですが、給与の算定方法としての日給月給制は否定されていません。
その他、臨時的に支払われる賞与のようなものや、一時金の支払いも認められています。
一部日払いのケースは?(旅客)
私は若いころトラックの運転手でした。
若いころというのは収入と支出のバランスがとれず、常にお金が足りません。
そこでよく利用したのが、一部日払いの制度です。
単に9000円の日給のうち、5000円だけを毎日前払いしてもらうだけです。
その会社が嫌になって急にやめたくなっても、完全日払いと違って1日4000円は会社に預けてありますから、そうそう簡単にケツをまくるわけにもいかず、日銭が入るので生活ができないわけでもない、労使ともに得があるいい制度だったと思います。
問題は、この一部日払いが、旅客自動車運送事業運輸規則の禁止事項に抵触するかどうかです。
実は、この運輸規則には、貨物では規制されていない禁止項目が書かれているのです。
(仮払い、前貸しその他の方法による金銭の授受であって実質的に賃金の支払いと認められる行為を含む)
そのままこの文言を解釈すると、一部日払いはNGのように思えます。
しかし、運輸規則解釈には、以下のような説明も記載されています。
つまり、一部日払いが賃金の支払いとしての意味を持つ場合はNGですが、雇い主から借りている場合はOKということです。
ですから、上記の場合は以下のようにすれば解釈上問題ありません。
☑日給9000円のうち、5000円を支払う。×
☑日給は9000円。5000円を毎日会社から無利子で借りる〇
※もちろん、給与の支払日に借入金は一括清算
乗務員(運転手)の選任には手順がある
当社のコラムでも散々書いてきましたが、旅客乗務員の選任には厳格な手順があります。
健康診断を受けたり、運転経歴書を取得したり、長ーい教育を受けたり・・・
様々な関門を経て、晴れて乗務員に選任されるころには、あっという間に2週間はすぎていることでしょう。
現行法令の手順で乗務員を選任すれば、日雇いの方や短期労働者は絶対に雇用できません。
最後に
事業用自動車の乗務員が少なくなっています。
業界的には完全な売り手市場です。
よく言われることですが、売り手市場は質の低下を招きます。
一部の商品が売れて売れてしかたがない状態のときは、新しい商品は登場しませんし、新卒採用が売り手市場のときは労働力の質の低下が問題になります。
事業用自動車の乗務員の売り手市場化が、同様の問題を起こすことは確実だと思います。
事業用自動車でもっとも大切かつ不安定なパーツ(?)は乗務員です。
しっかりした社内体制で、長く安定的に働いてくれる人を選びましょう。