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【旅客】【貨物】出向ドライバーの勤務期間について(前編)

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労働問題の悩み

お客様からのご質問にお答えする形です。
 

ご質問の内容
1.当社は東北地方で貸切バスを運行しています。
2.観光需要が増加していますが、乗務員不足で受注できない仕事が増えてきました。
3.九州にある仲の良いバス会社から、乗務員を出向で受け付けたいと思います。
4.先方もだんだん忙しくなっており、1ヶ月くらいしか出向させられない、とのこと。
 
質問①
九州の会社は関連会社ではありませんが、出向元としては問題ありませんか?
質問② 
出向の期間が1ヶ月でも、法的には問題ないのでしょうか?

 

出向には2点の注意を!

出向というのは、一般的に、グループ会社や子会社などで、自分の会社の従業員を働かせることを言います。
しかし、出向先は、関係会社に限られず、今回のような『仲の良い会社』という形もあり得ます。
 
出向には、在籍出向と転籍出向がありますが、今回のようなケースでは、在籍出向になることが多いでしょう。

出向が命じられると、その従業員は、出向先で勤務することになります。
つまり、出向先の命令指示系統に入る、ということになりますね。
 
給与については、在籍出向の場合は出向元が、転籍出向の場合は出向先が支払います。

 

自分の会社の従業員なら簡単に出向させられると考えている経営者の方も多いのですが、そんなことはありません。
出向には、以下の条件をクリアすることが必要です。
 
①就業規則や雇用契約書に出向命令権が明記されていること。
②出向したことによって、当該従業員に不利益が発生しないこと。

 

1ヶ月だけの出向は許される?

新型コロナウイルス感染症の影響が少しずつ小さくなって、観光需要も少しずつですが回復してきました。
これから、本格的な乗務員不足が問題になってきそうです。
そんな時、『1ヶ月だけ』というような出向制度の利用は許されるのでしょうか?

貸切バス乗務員の出向は1ヶ月でも許される?
運輸局に問い合わせをしました。
結論から申し上げますと、基本的にはNGとのことです。
 
なぜダメなの?
旅客運送事業運輸規則の規定がその根拠となります。
※貨物にも同じような規定があります。
貨物の場合も、以下、同様に捉えてください。

 
第三十六条
旅客自動車運送事業者(中略)は、次の各号の一に該当する者を前条の運転者その他事業用自動車の運転者として選任してはならない。
一 日日雇い入れられる者
二 二月以内の期間を定めて使用される者
三 試みの使用期間中の者(略)

 
今回の場合、『二月以内の期間を定めて使用される者』に抵触すると考えられます。

 

運輸規則36条に例外はない?

しかし、私はこの答えを素直に受け入れることができません。
その理由をお話しするには、まず運輸規則36条の制度趣旨から考える必要があります。

運輸規則の運用と解釈を読むと、運輸規則36条の趣旨について、以下のように書かれています。
 
(※運輸規則第36条の)第1項の趣旨は、労働条件の安定を図ることにより、運行の安全の確保と旅客サービスの改善に資するため、日雇い又はこれに類する不安定な労働条件の下に雇い入れられる者を旅客自動車運送事業の事業用自動車の運転者として選任し及び乗務させてはならないこととしたものである。
 
つまり、
①日雇い ②短期雇用 ③試用雇用
の者を選任してはならない、という規定の制定目的は、不安定な労働環境で働かされるような者を運転者に選任することを防止するためです。

 

しかし、今回の場合、出向してくる乗務員さんは、そもそも出向元会社で長期に雇用されている正規雇用者ですので、出向先で1ヶ月勤務するからといって、不安定な労働条件の下に雇い入れられるとは言えないのではないでしょうか?
 
派遣会社からの運転手派遣は、この規定から除かれているのに、なぜ出向はダメなのでしょうか?
 
皆さんはどう思われますか?

 

乗務員の出向需要はこれから増えてくる

観光需要の回復や、運転免許返納問題、鉄道赤字路線廃線問題など、旅客自動車(特にバス)や貨物自動車の需要はこれから益々増加すると考えられます。
一方で、乗務員の不足も益々深刻化してくるでしょう。

これからは、需要の増減に合わせて、複数の事業者間で乗務員を上手に配置することが必要になってくるでしょう。
その際、出向という考え方はとても大事になってきます。
 
乗務員さんたちの生活を安定させた上で、ある程度柔軟に出向制度を活用することは、これからの運送事業にとって、とても大切なことだと思います。

 
現在の状況で、『1ヶ月だけの出向社員』を雇用することは大変危険です。
どうしても利用したい場合は、とりあえず、当社までご相談ください。
契約内容を工夫するなどの対策で対応できる場合があります。
 
この問題については、国交省に質問書を提出してみようと思っています。
また進捗をご連絡いたします。
 

【中小企業診断士/行政書士 高原伸彰】