お問い合わせ 0120-359-555

貸切バスの回送料金無料!この表記は正しいのか?

この記事を読むのに必要な時間は約 6 分です。

実務全般

貸切バスの運賃料金には上限と下限があります。
業界の皆さんにはあたり前のハナシになってきましたが、一般の方から見るとちょっと信じられない制度です。

これ以上下げてはいけない

貸切バス運賃料金の下限というのはこれ以上下げてはいけない金額のことを言います。
国が決めた標準的な運賃料金のことで、関東の場合小型の貸切バスは1時間3,850円以下で運行してはいけません。
貸切バスの運賃料金を決めるには決められた計算方法があり、このルールに従って計算された金額をお客様から受け取ることが義務付けられています。

※個別に原価計算を行って決めた独自の運賃料金でも構いません。但し、独自運賃料金を適用するには、その運賃料金でも安全への投資が損なわれる心配がないことが証明されていなければなりません。
つまり、各運輸局の審査と認可が必要です。

【関連記事】
わかりにくい年間契約を再度解説します

時間制運賃をおさらいしておきましょう

①時間制運賃
ツアーなどで実際に拘束される時間で計算します。
例えば、朝9時に東京駅で集合。
いろいろ観光しながら、夜の7時に羽田空港で降車するとします。
この間の時間は10時間ですね。

時間制運賃はこの10時間に回送時間をプラスします。
朝、東京足立区の車庫から東京駅まで回送する1時間。
夜、羽田空港から足立車庫まで回送する1時間。
これで、計12時間の料金になりました。

これだけでは終わりません。
貸切バスには運行前の点検整備1時間と、運行後の点検整備1時間が必要です。
このコストもお客様が負担することになっています。
つまり、今回のツアーの時間制運賃の基準時間は14時間です。

回送料金無料!と宣伝してもいいの?

ごくごく稀に、当社、回送料金無料!をうたっている観光バス会社があります。
国が『回送料金を取りなさい』と言っているのにも関わらず、回送料金無料!と宣伝するのはいかがなものでしょうか?
これは違法ではないのでしょうか?

結論から言うと、違法ではありません。
ただし条件があります。

お客様から受け取る料金の合計が下限を割っていないこと

つまり、運行前後の回送料金や点検整備の料金を無料にする(宣伝する)のは自由だけれど、結果として運賃料金のトータルが下限を割ってはいけませんよ、ということです。

例①:点検整備(4,000円)+回送料金(4,000円)+実車運賃(50,000円)
+回送料金(4,000円)+点検整備(4,000円)
Total 66,000円(これを下限料金だと仮定します。)

例②:点検整備(0円)+回送料金(0円)+実車運賃(66,000円)
+回送料金(0円)+点検整備(0円)
Total 66,000円

下限料金のラインで収まるのであれば、このような料金のもらい方でもいい、ということです。

客待ち8時間で料金無料?

貸切バスの運賃料金制度が新しくなったのは平成26年です。
制度改正の主旨は次のとおりです。
①貸切バスの運行のために直接必要なコストはすべて利用者が負担する。
②運賃料金の最低ラインを個々の会社のコスト計算によって求め、国が審査・認可する。
③上記のコスト計算をしないのであれば、国が定める下限、上限を運賃料金として届け出る。

一番大事な考え方は①です。
貸切バスの利用者に見えにくいコストを意識的に負担してもらおうというところです。

安全運行のために必要で、旅客から見えにくいコスト
・運行前後の点検・整備のコスト(人件費)
・回送にかかるコスト(人件費・運行費)
・客待ち時間にかかるコスト(人件費)

バス協会の方が、『客待ちで8時間空くのであれば、そこは運賃料金から差し引けますよ』なんて言い方をされるようです。
確かにそのとおりなのですが、なぜ8時間空くのであれば運賃料金から差し引けるのか、がわかっていない貸切バス事業者さんが多いのです。
理由を一度整理しておきましょう。

例えば、ディズニーランドに午前8時に到着。
ここから客待ちになって、午後5時まで待機。
この9時間、乗務員さんの休息期間ということにすれば、運賃料金から差し引けるわけです。
なぜなら、休息期間=拘束されない時間=給料が発生しない時間だからです。

給料が発生していないのに、利用者にコストを負担させることはできません。
ただし・・・
バスの車内で寝ていたのではダメですよ。

バスで休息をとっていた場合の問題点
①乗務員さんが精神的に休息できない。
②バスの空調等のコストは誰が負担する?
③休息期間であったことを誰が証明する?

乗務員さんは納得できるのか?

では、乗務員さんの立場で考えるとどうでしょう?
確かに、会社からはディズニーランドの近くの日帰り温泉のチケットをもらい、
『拘束を解きます。好きにしていいですよ』
とは言われました。
しかし、この場所で休息期間、当然給料なし
何だか納得できません。

お客さまや事業者からの目線と、乗務員の目線では大きくとらえ方が異なります。
それでなくとも、2種免許を持った運転手さんの人手不足が深刻です。
客待ち時間を、お客さまには『休息期間なので無料』と言い、乗務員には裏からこっそり手当を払っていたのでは、運賃料金が下限を割り込んでしまい、本来の主旨に反することになってしまいます。

国の支援をムダにしないで

送迎無料!
回送無料!
実車以外無料!

現状の運賃制度は、関越道や軽井沢で貸切バスが起こした痛ましい事故を契機に策定されました。
この運賃制度の主旨は、安全運行に必要なコストを利用者に知ってもらい、負担してもらう、ということに尽きます。
この大事な主旨を、貸切バス事業者が無視するのはどうでしょう?

せっかく国が必要なコストを確保する後押しをしてくれたのですから、それをムダにするような行為は控えるべきです。
優れたサービス=低料金という、極めて安易な発想・・・
もうやめませんか?
同じ観光産業でも、脱価格競争路線で奮闘する、ホテル、旅館業界を見習った方がいいのではないか?と思います。