お問い合わせ 0120-359-555

【旅客】8月22日のバス事故について考える(今すぐにできること)

この記事を読むのに必要な時間は約 8 分です。

実務全般

8月22日(月)に、名古屋で高速バスが大きな事故を起こしました。
原因はまだはっきりしていませんが、当日の点呼でも問題が発見できなかったこと、日ごろから運転しなれたルートであったことから、突然の疾病による運転操作ミスの可能性も指摘されています。
 
この事故をうけて、国土交通省が日本バス協会に向けて通達を出しています。
その内容はごくごく当然のものですが、今回の事故がもしも健康起因によるものだと考えると、具体的な内容に欠ける対策とも取れます。
 
今回は、航空機や鉄道と比較して、なぜバスやタクシーなど、旅客運送事業者に健康起因の事故が多いのか、なぜ防止できないのかを、考えてみます。

8月22日のバス事故をうけて

ニュースなどでよくご存じように、先週8月22日午前10時すぎ、名古屋市北区の名古屋高速道路で、名古屋空港に向かっていたバスが横転、炎上し、2人が死亡した他、7人のけが人がでました。
 
この事故を受けて、国土交通省は、日本バス協会に対して通達を出しています。
バス協会に加盟されていない事業者さんには、その内容が不明かもしれませんので、記載しておきます。

8月22日(月)午前10時ごろ、愛知県名古屋市北区の名古屋高速道路において、高速乗合バスが乗客を乗せ走行中、横転、炎上し、2名が死亡、7名が負傷するというまことに痛ましい事故が発生した。
輸送の安全確保は、自動車運送事業者の最大の使命であり、事故を起こさず、国民の生命、身体及び財産をしっかり守ることこそが、運送事業の社会的信頼を維持するために最も必要なことである。
このため、高速乗合バスの安全確保の徹底を図り、利用者の信頼回復に万全を期すため、貴会傘下会員に対し安全対策及び事故防止の徹底が図られるよう下記事項について周知徹底を図られたい。
 
1.運行管理業務を再確認し、安全確保の原点に立った確実な運行管理を実施すること。
特に次に掲げる事項を適切に実施すること。
(1)確実に点呼を実施すること
(2)乗務員の健康状態、過労状態の確実な把握に努めること
(3)適切な運行管理を作成し、確実に指示すること
 
2.乗車中のシートベルトの使用等、乗客の安全確保を図るための周知事項を再徹底すること。
 
3.運行にあたっては、車両の点検整備を確実に実施するとともに、乗務員に対して制限速度の遵守をはじめとした道路交通法等の法令順守の徹底を図るなど、安全確保を最優先するよう関係者に徹底すること。

(すべて原文のまま)

 

もしも病気が原因なら?

今回の事故の原因が、運転手の体調不良による運転ミスだったとしたら、事故を防止するに、会社は何をすればよかったのでしょうか?

健康起因の事故を防止するためには?
 
上の通達の中では、(2)が該当します。
————————————————————
 
(2)乗務員の健康状態、過労状態の確実な把握に努めること
 
————————————————————
この問題の対策には、以下の方法が考えられます。
①健康診断の受診
②対面での点呼作業

 
しかし、これくらいのことは、事故を起こしたAバス会社でも、しっかりやっていたはずです。
更に一歩踏み込むためには、どうすればいいのでしょうか?

 

パイロットが体調不良になることはない?

バスや鉄道と同じように、多くの人命を預かる仕事として、航空機のパイロットが挙げられます。
しかし、バスや鉄道の運転手に関する体調不良のニュースは時折ありますが、パイロットについてはあまり聞いたことがないような気がします。

『パイロット 体調不良』で検索してみると、今年の1月に、航空機の機長が体調不良になって、途中から引き返したというニュースがありました。

 

共同通信 2022年1月23日配信
国土交通省成田空港事務所によると、23日午後8時すぎ、四国沖上空を飛行中の成田発シンガポール行きエアージャパン801便が、機長が体調不良を訴えたため成田空港に引き返した。9時10分に着陸し、乗客にけがはなかった。

 
いろいろ調べてみると、パイロットについては、年に2回、人間ドッグ(レベル)以上の健康診断が課せられているそうで、この検査にパスしない場合は、搭乗禁止というペナルティがあるそうです。
確かに、言われていると極端に肥満体のパイロットは、見かけたことがありません。

実際、(特に外国人パイロットには)それなりに太った方が実在するようですが、それは体質の問題で、健康診断の厳しい数値制限をパスしているから問題ない、ということのようです。

 

パイロット並みの健康診断で事故は予防できる?

確かに、パイロット並みの健康管理を義務化できれば、少なくとも健康起因の事故はかなり防止できるでしょう。

しかし、そんな施策をとったら、それでなくとも不足しているバスドライバーがますますいなくなってしまいます。
 
こういうやり方は、年収も高く、社会的地位も保障された航空機のパイロットだからできると言えます。

 
しかし、この問題の本質は、厳しい体調管理義務の有無だけにあるわけではないように思います。

パイロットは引き返せば賞賛、バスが停車したらブーイング?

上記の記事では、シンガポール行きの航空機において、機長が腹痛を訴えたため、安全な飛行が不可能との判断により、出発地の成田へ引き返しました。
 
興味深いのは、この記事を読んだ一般の方のコメントの多くが、体調不良を理由に飛行を断念したパイロットの決断を賞賛するものであったことです。

同じように、体調不良のバスドライバーが、それを理由に路肩に停車したら、お客様やニュースを見た方の反応はどうなるでしょう?
 
一般の方(つまり部外者、利害関係者)からは賞賛されそうですが、乗客からは抗議の声が飛んできそうです。
 
バスも大型になると、50名、60名の乗客が乗車します。
体調不良で路肩に停車したバスドライバーは、それら多くの命を守ったと言えますが、パイロットや鉄道の運転手ほどには賞賛されず、お客様からはクレームを言われそうなのが不憫です。

 

体調不良ならすぐに停車できる風土作りを

最初にご紹介した国土交通省の通達に書かれた対策は、確かにストレートで文句のない(言えない)内容ですが、あまり効果があるとは思えません。
 
私は、このような事故を減らすためには、バスドライバーが体調不良の際に、自分の判断ですぐに停車できる環境(風土)が大切だと考えています。

健康起因の事故を減らすために緊急提言!
 
!!体調不良のときは、迷わず緊急停車できる社会風土を!!
 

 

航空機や鉄道のように、乗務員が体調不良になったら、すぐに停車できる風土(環境)を、バスやタクシーについても整備して欲しいと思います。
国交省の方は、バス会社への注意喚起だけでなく、お客様に向けての啓蒙活動も並行して実施いただきたいと思います。

 
例えば、こんなお願いがバスの目立つ場所に貼られているだけで、バスの乗務員さんはずいぶん気が楽になると思うのですが、どうでしょう?

お客様へお願い

 
このバスは1名の乗務員で運行されています。
乗務員は、日ごろより体調管理に務めておりますが、万が一、体調が思わしくない、安全な運行ができない、と判断した場合は、皆さまの生命を守るため、安全な場所に緊急停車して応援を待つ場合がございます。
バスの安全運行のために、どうぞご理解とご協力をお願い申し上げます。
 

国土交通省 日本バス協会

 

【中小企業診断士/行政書士 高原伸彰】