最近、お客様のお話を聞いていると、改善基準告示における『分割休息』が、わけのわからない解釈の中でひとり歩きしている印象を感じます。
今日は、いろいろと適当な解釈をされて(困っちゃってるであろう)ブンカツキョウソクさんについて、私なりの考察を書いてみたいと思います。
まずは原則論
最初は、分割休息の原則論から始めましょう。
分割休息は、以下のような趣旨で設定され、一定の条件下で利用が認められています。
①1回が4時間以上であること。
②トータルの休息期間が10時間以上になること。
次に、原則的(正しい)な使い方の例を挙げてみます。
そのまま運行すれば、拘束時間は19時間なので、業務終了後の休息期間は5時間しかとれません。
つまり、改善基準告示に違反していることになります。
もっとも、今回の運行はゴルフコンペの送迎です。
ゴルフ場に到着し、お客様を降車させれば、プレー中の午前10時から午後4時まではフリーの状態になる予定です。
会社はゴルフ場に併設されたホテルの一室を借りて、乗務員に休息してもらうことにするようです。
そうすれば、昼間、ホテルでのフリータイム6時間、終業後の5時間、合計11時間の休息となります。
この運行の場合、やむを得ずですね。
もしも、間に6時間のフリータイムがないのであれば、ツーマン体制の運行を考える必要がある運行です。
分割休息の特例は、このような場合に利用することが前提になっています。
運行途中に4時間以上空いたら抜ける?
上に書いたような使い方がこの特例の本来的な正しい使用方法なのですが、いつの間にか、以下のような間違った使い方(解釈)をされるようになってきました。
誰が決めたんじゃい・・・
どこに書いてあるんじゃい・・・
どうも、この考え方の根底にあるのは、4時間以上の休息がとれるのであれば休息期間と考えてよいをいう、非常に勝手(無理)な解釈があるようです。
しかし・・・
どこから、この考え方ででてきたのでしょう?
ことの発端は『Q&A』か?
私も行政書士として、法律屋の端っこに座らせてもらっています。
しかも、運輸を専門にしている関係で、この『4時間空いたら運賃から抜ける』的問題については、ほぼ毎週、実にいろいろな方面から質問をぶつけられることになります。
※出版社の方からご質問を受けることもあります。
Q16:スクールバスなどの朝・夕のみの運行の場合、利用しないで待機する時間は拘束時間から排除すべきか。
答え:貸切バスの新たな運賃・料金制度は安全コストを反映した運賃としているため、待機した時間は時間制運賃を収受する。
ただし、改善基準告示でいう休息期間を与えた場合には、当該時間は走行時間から除くことが出来る。
もともと分割休息は、『勤務終了後に8時間以上のまとまった休息が取れない場合』の救済策として制定されています。
それなのに、拘束時間が16時間を超えることなど、まず!考えられないスクールバスの事例のところで、なぜ持ち出したのでしょうか?
だって、勤務終了後に8時間のまとまった休みが取れないスクールバスの送迎ってあり得ない・・・です。
とは言え、せっかく親切で特例について説明したのにも関わらず、勝手な解釈の原因のように言われては立つ瀬がありませんね。
しかし、残念ながら(実務をやっていると)この文章には大きな問題点のあることがわかります。
————————————————————
このQ&Aの文章の趣旨は以下のようになります。
————————————————————
①朝の運行と、夜の運行の間で待機している時間があっても、時間制運賃はちゃんともらってね。
②でも、運行しない時間が休息期間にできるのであれば、そこは運賃から外してもいいんだよ。
③この場合の休息期間というのは、改善基準告示における休息期間のことだよ。
改善基準告示における休息期間とは?
1日の休息期間は、勤務終了後、継続 8 時間以上必要です。
※『バス運転者の労働時間等の改善基準のポイント』より
おかしいところに気づきましたか?
勤務終了後に、継続8時間以上??
スクールバスの朝と夕方の間のフリータイムに、勤務終了後の8時間以上の休息とは、これ如何に?
午前の運行と、午後の運行を分けて2運行にして、ドライバーも変えるってこと?
そんなことします??
そもそもこの特例のデキが悪い
分割休息の特例は、はっきり言って『できが悪い』です。
ちょっとでも運賃をダンピングして、仕事を確保したいバス事業者さんに付け入るスキを与えすぎです。
厚生労働省は全国労働局の親玉ですから、どちらかと言えば、労働者サイドの考え方をする役所です。
そんなお役所の考えた決まりですから、悪用(言い方悪くてごめんなさいね)されることは想定していません。
長時間働かせたい使用者側と、それを阻止したい労働者側の言い分の折衷案的なもの。
それが分割休息の特例です。
分割休息と中休は違う
分割休息は少し横に置いといて・・・
中休(ちゅうきゅう)ってわかりますか?
私は、昔バイトしていた『駅そば』で体験しています。
そこから仕込みを始めて、5時には開店、8時まで勤務します。
8時にいったん拘束解除となり、また夕方の4時に出社(出店)し、そこから夜7時の閉店まで勤務します。
朝と夕方のピークに、多くの従業員をキープするための手段で、いろいろな業界で利用されています。
勤務時間は午前3時間、午後3時間ですが、中休手当というものが、月5000円くらい出ました。
このような勤務形態は、乗合バスでも取られています。
分割休息を『自分の都合のいいように利用したい社長さん(何度もごめんなさいね)』の頭の中には、この中休の理屈があるのではないでしょうか?
しかし、残念ながら、中休と分割休息は似ているようで全く違います。
中休は就労規則で定める必要がある
様々な業界で利用されている中休ですが、こちらは分割休息と違って、特例扱いではありません。
中休というのは、一種のシフト制勤務になります。
変則と言えば変則ですので、この仕組みを利用するためには、就労規則に定めて、労働者側の同意を求める必要があります。
一方で、分割休息はシフト制勤務、変則勤務と呼べるでしょうか?
私の個人的な意見ですが、分割休息をシフト制勤務と呼ぶのには、かなり無理があると思っています。
そもそも、このような緊急避難的な仕組みが就労規則に堂々と記載されることはありませんし、労働者の同意も得られないでしょう。
では、どうすればいいの?
緊急避難的な改善基準告示が、時間制運賃の中抜き理由になってしまっている現状は、正しいものではありません。
巡回指導でも、地域や指導員によって認めたり認めなかったりしているので、バス会社の担当者はますます混乱するばかりです。
原則:分割休息は緊急避難用。避難しなくてもいい事例では使えない。
提言:もしも現地の空き時間で運賃中抜きをしたいのであれば、運賃・料金の変更を考えたらどうか。
そもそも、貸切バスの現在の運賃制度は、バス会社が適切な利益が得られるように考えられたものです。
————————————————————
質問:運行途中で4時間運転手が休憩できたとしても、その間拘束されているバスのコストはどうする?
この4時間について、運転手の休息が認められたとしたら、運転手はその時間は無給になります。
つまり、人件費はゼロ。
でも、バスは使われることなく待機状態になるわけです。
中抜きにするということは、この4時間は『お客様から1円も支払われない』ということです。
じゃあ、バスの4時間分のコストは誰が負担するのでしょうか?
————————————————————
止まっている⇒軽油いらない⇒コストゼロ
って考えちゃダメですよ。
バスには寿命があります。
1時間置いておくだけでも、コストがかかると考える必要があります。
————————————————————
このコストを負担するのは、バス会社ですよね。
それでは、せっかく国交省が決めてくれた運賃制度の趣旨が無駄になってしまいます。
運転手が休息に入れたからと言って、簡単にその4時間を無料にするわけにはない理由がここにあります。
ゴルフ場に送迎して、お客様のプレー中の6時間分を値引きしたいのであれば、人件費分だけを値引きできるような運賃料金体系を作ってみたらどうでしょう?
例↓
(通常)時間制運賃 5,400円/h 距離制運賃 120円/km
(特例)4時間以上待機時間があった場合の特別運賃
時間制運賃 3,000円/h
この4時間、乗務員さんは無給になりますから、就労規則も大幅に変更する必要がありますし、バス待機のコストを算出する原価計算も必要になります。
もちろん、こんな届出が受理されるかどうかもわかりません。
しかし、キチンと手続きを踏んでルールを作らないと、いつまでも分割休息の特例を恐る恐る利用することになります。
どうせやるなら、正々堂々値引きした方がいいでしょう。
この問題については、すっきり解決する方法を考えてみたいと思っています。
まず、仲間の社労士に、ゴルフ場などでの待機時間を休息期間にするための就労規則の作成を依頼してみようと思っています。
それが労働局に受理されてしまえば、次は原価計算からの運賃料金の設定です。
時間はかかるかもしれませんが、ともかく動いてみましょう。
興味のあるサポート先のメンバー様はご連絡ください。