先日、国土交通省自動車局主催の『プロドライバーの健康管理・労務管理の向上による事故防止に関するセミナー』に行ってきました。
その中で、東北大学の国松志保先生がお話しになった『視野障害と交通事故』が非常に興味深く、とても参考になりました。
緑内障の発症原因や治療法について、医学的な見地から説明するのは病院などのサイトにお任せするとして、このサイトでは、緑内障が運転に及ぼす影響について考えてみます。
緑内障とは?
原因は明確にはわかっていません。
しかし、何らかの原因で眼圧の高い状態が継続すると視神経が侵され、発症します。
視神経がもともと弱い、免疫の異常など、いろいろ考えられていますが、どれも確実と言えるものではありません。
視野が欠ける??
緑内障の主たる症状として挙げられるのは、『視野の欠損』です。
欠損のしかたにもいろいろなパターンがあり、自覚症状の起きにくいものから、視野の中央部分がトンネルの先のようになって周囲が完全にブラックアウトするものまで様々あります。
▶自覚症状なし 26%
▶部分的に欠けて見える 16%
▶部分的にかすんで見える 54%(一番多い)
▶黒く欠けた部分がある 0%
▶ぼんやりとしたトンネル状になる 4%
▶周囲がトンネルのようにブラックアウトする 0%
※出典:緑内障はどのように見えるか?視野喪失に対する患者の認識
(Crabb DP et al.Ophthamolory.2013;120:1120-6.)
ほとんどの人が無自覚のまま運転している
緑内障による視野障害の特徴として、どちらかの目の片方だけが悪い場合は自覚できないことが挙げられます。
人間は左右の目を無意識に操作して前方の視界を確保していますので、例えば左目に緑内障が原因の視覚障害が発生したとしても、その部分を右目で補うことができるので、自覚症状が起きにくいわけです。
緑内障も、発症してからかなりの時間は自覚することが難しい病気です。
多少、症状が進行しても、中心部分が見えているので自覚できないことが多いのです。
びっくり箱現象とは?
びっくり箱現象という言葉をお聞きになったことがあるでしょうか?
運転中、突然横から車が出てきたり、子供が飛び出してくるように感じる現象です。
欠損部分が大きくなると、いつも通っている道で今まであったはずの一時停止の標識がなくなっているように見ることがあります。
確かに加齢によって、集中力が低下したり、好奇心がとても強くなって、わき見運転が増えたりすることはあります。
しかし、いつも慎重な運転を心がけているにもかかわらず、車や自転車が急に飛び出してきたり、子供が突然目の前に現れるようなことが増えてきたら、緑内障による視野欠損を疑ってもいいかもしれません。
認知症と同じくらいの患者数
皆さん、ご自身の認知症発症のリスクはご存じでしょうか?
発症リスクを発症比率と考えると、日本の高齢者(65歳以上)で15%程度です。
つまり65歳を越えると、7人に1人は認知症を患うことになる計算です。
一方、緑内障の発症比率はどのようになっているのでしょうか?
緑内障の統計(TAJIMI STUDY)によると、70歳以上の成人の有病率は10.8%でした。
おおむね9人から10人に1人の計算です。
(推定される国内の患者数は約465万人)
▶検査により発見された緑内障患者のうち89%は未治療・無自覚の潜在患者だった。
※TAJIMI STUDY 2000年9月~2001年10月
岐阜県多治見市 総受診者数 17,800名
自らの身に発症する認知症には危険を感じているのに、緑内障にはほとんどの人が無防備であることがわかります。
健康診断では発見できない
皆さんが一年に一度、ないしは二度受けている健康診断では、残念ながら緑内障は発見できません。
通常の健康診断は内科医が行うので、眼科的な視点というよりも、内科的視点での検査になってしまいます。
40歳をこえた乗務員を雇用されている事業者は、ぜひ定期的な眼科の受診もお勧めしたします。
私は今回のセミナーを受講して、あのような事故は緑内障による視野欠損も少なからず含まれているのではないか?と考えるようになりました。
視野欠損の場合、本人にその自覚がありませんから、事故をおこしてしまった後に残る感想としては「『ぼんやりとしていて・・・』にしかならないのではないでしょうか?
これからも緑内障など、事業用自動車の事故に関連する病気についての記事を書いていこうと思います。
一緒に勉強してまいりましょう。