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貸切バス トラック 健康診断の素朴な疑問にお応えします

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実務全般について

乗務員の健康を保つためには、定期的な健康診断が欠かせません。
事業用自動車を運行する事業者ならば、行政に指示・管理されなくとも、自ら実効性の高い健康管理のスケジュールを構築すべきです。
 
健康管理に関する事業者の管理責任は大変重くなっています。
夏は乗務員が健康を害しやすい季節です。
ここで一度健康診断に関する知識を整理しておきましょう。
 

健康診断は年に何回受ければいいですか?

健康診断を年に何回受ければいいか、という質問をよくいただきます。
この点については、『原則1年以内に一回』とお答えしています。
定期健診が1年に一回であることの根拠は、労働安全衛生規則の第44条に明記されています。

労働安全衛生規則
第44条 事業者は、常時使用する労働者(第四十五条第一項に規定する労働者を除く。)に対し、一年以内ごとに一回、定期に、次の項目について医師による健康診断を行わなければならない。 (以下省略)
 
※第四十五条第一項に規定する労働者とは、もっと条件の厳しい労働者のことを言います。

 
では、すべての乗務員について1年に一度の健康診断でOKか?と言うとそうでもありません。
 
業務の内容次第では、6ヶ月以内に一度の健康診断が必要な場合があります。
事業用自動車の乗務員として、健康診断を6ヶ月以内に一度受ける必要がある場合というのは、ほとんどの場合『深夜業を含む業務』に限られます。
深夜業と言うのは、『午後10時から翌5時』までの間に勤務することを言います。
その根拠は以下の法令にあります。

労働基準法
第37条4項 使用者が、午後十時から午前五時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時まで)の間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
第61条1項 使用者は、満十八才に満たない者を午後十時から午前五時までの間において使用してはならない。ただし、交替制によつて使用する満十六才以上の男性については、この限りでない。

 
深夜業を含む業務に従事している乗務員が6ヶ月以内に一度の頻度で健康診断を受ける根拠となる法令は以下のとおりです。

労働安全衛生規則
第45条 事業者は、第十三条第一項第三号に掲げる業務に常時従事する労働者に対し、当該業務への配置替えの際及び六月以内ごとに一回、定期に、第四十四条第一項各号に掲げる項目について医師による健康診断を行わなければならない。
 
第13条に書かれている業種
イ 多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務
ロ 多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務
ハ ラジウム放射線、エツクス線その他の有害放射線にさらされる業務
(省略)
リ 坑内における業務
ヌ 深夜業を含む業務
ル 水銀、砒(ひ)素、黄りん、弗(ふつ)化水素酸、塩酸、硝酸、硫酸、青酸、か性アルカリ、石炭酸その他これらに準ずる有害物を取り扱う業務(省略)

 

深夜労働にあたる乗務員って?

企業送迎の仕事を一般貸切で行う場合を例に挙げます。
 
ある乗務員さんは、夕方の6時に車庫を出て、A製粉の川崎工場と最寄り駅の間を3往復するとします。
仕事を終えて車庫に帰庫するのは、毎晩10時30分です。
この乗務員さんはこの仕事に月4回乗務します。

健康診断の回数を考える上で、例に挙げて乗務員さんが深夜労働者にあたるかどうかはとても大きな問題になります。
結論から申し上げますと、この乗務員さんは立派な深夜労働者です。
この場合の論点は2つあります。
①午後10時から翌5時までの何分(何時間)以上が対象になる?
②月に1回でも深夜労働者になる?

 
まず①については、明確な文章が見当たりませんでしたが、午後10時30分まで働く(つまり30分はゾーンに入っている)のであれば、深夜労働者と呼べると判断します。
 
②については、6ヶ月を平均して月に4回以上の勤務実績があれば深夜労働者です。
根拠法令は以下のとおりです。

労働安全衛生法
第66条の2 (自発的健康診断の結果の提出)
午後十時から午前五時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時まで)の間における業務(以下「深夜業」という。)に従事する労働者であつて、その深夜業の回数その他の事項が深夜業に従事する労働者の健康の保持を考慮して厚生労働省令で定める要件に該当するものは、厚生労働省令に定めるところにより、自ら受けた健康診断(前条第五項ただし書の規定による健康診断を除く。)の結果を証明する書面を事業者に提出することができる。

 
深夜に仕事をしていて会社の健康診断を受けることが難しかったり、自ら健康に不安を覚えた場合に深夜労働者が自分の判断で健康診断を受ける自由を明記したものです。
この自発的健康診断結果の提出ができる労働者について、以下の法令があります。

労働安全衛生規則
第50条の2 法第六十六条の二の厚生労働省令で定める要件(※上のアンダーライン)は、常時使用され、同条の自ら受けた健康診断を受けた日前六月間を平均して一月当たり四回以上同条の深夜業に従事したこととする。

 
つまり、6ヶ月を平均して1月あたり4回以上深夜業に従事した従業員は、自分の判断で健康診断を受けて、事業者にその結果を提出することができることになります。
逆に言うと、6ヶ月を平均して1月あたり4回以上深夜に働けば、深夜業に従事した従業員とカウントされるわけです。
 

入社したときに受ける健康診断の種類は?

乗務員は入社したときに健康診断を受けなければなりません。
健康診断の診断項目についてもいろいろと質問を受けることがあります。
乗務員の雇い入れ時の検査項目は以下のとおりです。

雇い入れ時の検査項目
【問診】
1.既往歴及び業務歴の調査
2.自覚症状及び他覚症状の有無の検査
【測定】
3.身長、体重、腹囲、視力及び聴力
【検査】
4.胸部エックス線検査
5.血圧の測定
6.血液検査
・血色素量及び赤血球数の検査(貧血検査)
・血清グルタミックオキサロアセチックトランスアミナーゼ(GOT)、血清グルタミックピルビックトランスアミナーゼ(GPT)及びガンマ―グルタミルトランスペプチダーゼ(γ―GTP)の検査(肝機能検査)
・低比重リポ蛋白コレステロール(LDL コレステロール)、高比重リポ蛋白コレステロール(HDL コレステロール)及び血清トリグリセライドの量の検査(血中脂質検査)
・血糖検査
7.尿検査
8.心電図検査

 
新しく雇い入れた乗務員が、前職において健康診断を受けていた場合には、その診断結果を利用することもできます。
但し、その期間は雇い入れの日から3ヶ月以内です。
根拠法令は以下のとおりです。

労働安全衛生規則
第43条 医師による健康診断を受けた後、三月を経過しない者を雇い入れる場合において、その者が当該健康診断の結果を証明する書面を提出したときは、当該健康診断の項目に相当する項目については、この限りでない。

 
定期健康診断の項目は、雇い入れ時の健康診断よりも少し項目が少なくなる場合があります。
例えば以下のような場合は、少し診断項目が減ることがあります。

【身長】
20歳以上の者
※『20歳以上の者なら、身長の測定は除外していい、と言う意味』
※以下、同様
 
【腹囲】
1. 40歳未満(35歳を除く)の者
2. 妊娠中の女性その他の者であって、その腹囲が内臓脂肪の蓄積を反映していないと診断された者
3. BMIが20未満である者(BMI(Body Mass Index)=体重(kg)/身長(m)2)
4. BMIが22未満であって、自ら腹囲を測定し、その値を申告した者
【胸部エックス線検査】
40歳未満のうち、次のいずれにも該当しない者
1. 5歳毎の節目年齢(20歳、25歳、30歳及び35歳) の者
2 感染症法で結核に係る定期の健康診断の対象とされている施設等で働いている者
3. じん肺法で3年に1回のじん肺健康診断の対象とされている者
【喀痰検査】
1. 胸部エックス線検査を省略された者
2. 胸部エックス線検査によって病変の発見されない者又は胸部エックス線検査によって結核発病のおそれがないと診断された者
【貧血検査、肝機能検査、血中脂質検査、血糖検査、心電図検査】
35歳未満の者及び36~39歳の者

 

健康診断受けるのが1ヶ月遅れたけど大丈夫?

昨年の3月16日に健康診断を受けた乗務員さんがいるとします。
この乗務員さん、3月は乗務が多くとても忙しかったので、健康診断が受けられませんでした。
何とか4月5日に近くの病院で診断を受けることができたのですが・・・・
これは法令違反ですか?
 
こんな質問を受けることもよくあります。
昨年の3月16日に受けたのですから、ちょうど20日遅れてしまっただけです。
問題ないように思えますが・・・

基本的なお話をすると、この場合は法令違反となります。
 
労働安全衛生規則
第44条 事業者は、常時使用する労働者(第四十五条第一項に規定する労働者を除く。)に対し、一年以内ごとに一回、定期に、次の項目について医師による健康診断を行わなければならない。 (以下省略)
 
下線部をよく読んでください。
『一年以内ごとに』と書かれています。
『一年ごとに』と書かれていないことが大事です。
 
つまり、昨年の3月16日に受診したのであれば、今年は3月16日以前に受ける必要があるわけです。

 
健康診断は安全経営の要です。
巡回指導や監査対策と思わずに、自主的に利用するようにして下さい。
 

【中小企業診断士/行政書士 高原伸彰】