お問い合わせ 0120-359-555

貸切バス 運賃中抜きの条件をまとめてみます。(前編)

この記事を読むのに必要な時間は約 7 分です。

その他

貸切バスの運賃料金が新しいシステムになってから盛んに『中抜き』という単語が使われるようになりました。
中抜きとは、待機中などの場合に、その時間を運賃から差し引くことです。

運賃の中抜きって何?

中抜きというのは、貸切バスが待機している場合などの時間を運賃から差し引く行為です。
なぜわざわざ決められた運賃を請求せずに、自分から値引きをするかというと、それはもちろん少しでもライバル会社より安い運賃を提示して仕事を取りたいからです。

朝10時に集合場所である横浜駅を出発して、ディズニーランドに行くツアーを考えてみます。
朝の渋滞があったり、駐車場待ちがあったとしても、まあ1時間半見ておけば確実に夢の国に到着することができます。
すると、チャーターしたバスは遅くとも午後0時には空車の状態になります。
 
お客様は午後7時までディズニーランドに滞在します。
つまりバスは午後0時から午後7時まで、ディズニーランドないしはその周辺で待機することになります。
『中抜き』というのは、この約7時間の時間制運賃を無料にする方法(テクニック)のことです。

 

改善基準告示の休息期間が条件

ディズニーランドで待機するバスの時間制運賃を無料にする方法は、『貸切バスの新たな運賃料金制度の Q&A 』に書かれています。
この文書は関東運輸局のホームページからもダウンロードできます。
 
貸切バスの新たな運賃料金制度のQ&Aのダウンロード

文書をダウンロードされた方は、Q16をご覧ください。
こちらに、車両を待機する場合に待機時間の時間制運賃を無料にする方法が書かれています。
 

Q16:スクールバスなどの朝・夕のみの運行の場合、利用しないで待機する時間は拘束時間から排除すべきか。
A:貸切バスの新たな運賃・料金制度は安全コストを反映した運賃としているため、待機した時間は時間制運賃を収受する。ただし、改善基準告示でいう休息期間を与えた場合には、当該時間は走行時間から除くことが出来る。

 
原則は、待機中も時間制運賃を請求するのですが、休息期間の条件を満たせばその部分の時間制運賃を無視することができる、とあります。

 

改善基準告示の時間条件は?

改善基準告示で言う休息期間とは、どんなものだったでしょうか?
覚えていますか?
 

 

【休息期間の条件】
①1日8時間以上であること。
②やむを得ない場合、継続4時間以上、1日の合計10時間以上で分割できること。

 

令和4年12月3日加筆しました
 
上記の事例で、待機中の7時間を休息期間にできるかどうかは、この日の勤務体系が、『やむを得ず』分割休息を与える場合にあたるかどうかで判断します。
 
もしも、このドライバーさんが勤務を終えて、8時間以上の休息をとれるのであれば、分割休息のルールである『やむを得ない場合』には相当しないので、休息期間に(つまり中抜き)することができません。
 
※ダメな事例のつもりで書いた記事なのですが、言葉が足りませんでした。
※加筆するとともに、ご指摘いただいた方にお礼申し上げます。

改善基準告示の場所・施設の条件は?

時間的な部分での休息期間の条件は以上のとおりです。
では、場所や施設的な観点での条件はどうでしょう?

③運転者の住所地での休息期間が、それ以外の場所での休息期間より長くなること。
 
改善基準告示に書かれた、場所に関する条件はこれだけです。

 
では、施設についてはどうでしょうか?

施設の条件は厳しい

運転手が休息期間を過ごす施設についての決まりは、改善基準告示ではなく、『旅客自動車運送事業運輸規則』に詳しく書かれています。
休息期間を住所地ではなく、会社の休憩仮眠施設で過ごす場合や、宿泊地のホテルで過ごす場合の規定です。

旅客自動車運送事業運輸規則
第21条 過労防止等
(略)
3 旅客自動車運送事業者は、乗務員に第一項の告示で定める基準による一日の勤務時間中に当該乗務員の属する営業所で勤務を終了することができない運行を指示する場合は、当該乗務員が有効に利用することができるように、勤務を終了する場所の付近の①適切な場所②睡眠に必要な施設を整備し、又は③確保し、並びにこれらの施設を適切に管理し、及び保守しなければならない。

 
この文章を読む場合に大切なことは、第3項の赤字の部分です。
会社で休息期間を取得する場合は、特に問題ありません。
法令で定められた条件の休憩仮眠施設が『自前で』用意されているはずだからです。
問題は、営業所以外の場所での待機です。

先ほどのディズニーランドを例にとって考えます。
午後0時から午後7時まで、約7時間の待機時間が発生しました。
この時間の時間制運賃をもらうとすると、小型車でも25,000円以上の運賃が追加になります。
そんな負担をお客様にさせたくない、と考えると、この時間を休息期間として運賃の算定外にする必要があります。
そこで問題になってくるのが、運転手をどこで休息させるかという点です。

 

宿泊施設を会社が予約する必要がある?

休息を取らせる場所として候補にあがるのは、『ビジネスホテル』『日帰り温泉』『漫画喫茶』『民宿』『ネットカフェ』などです。
しかし、残念ながら多くの『日帰り温泉』、ほとんどの『漫画喫茶』、『ネットカフェ』は対象なりません。

旅客自動車運送事業運輸規則第21条第3項の赤字の部分を思い出してください。
①適切な場所
快適な眠りを確保できるという点で適切な場所です。
 
②睡眠に必要な施設
寝具等が備えられているという意味に解せます。
この条件は非常に大事です。
なぜなら、利用料金を受け取って寝具を提供できる施設は『旅館業法におけるホテル営業、旅館営業、簡易宿所営業及び下宿営業』であり、その中には『宿泊施設を持たない日帰り温泉』や『ネットカフェ』などは含まれないからです。
 
③確保
この『確保』もとても大事な条件です。
『確保』というのは、簡単には『会社が予約』『会社が手配』と解されます。
つまり、事前に会社が予約、手配していない施設は休息場所として不適当という意味です。

 

原則論を大事に運用しましょう

いかがですか?
事業者さんの中には、『日帰り温泉なら横になれるから大丈夫』、『ネットカフェなら泊っている人もいるのだから大丈夫』と思っていらっしゃる方も多いのですが、それは間違いです。
もちろん、今日私が書いた内容は原則論ですので、支局によっては多少対応が違う(甘くなる)部分があるかも?しれません。
 
しかし、制度運用の基本は原則を重視することです。
『運賃中抜きのための休息期間』を考えるのであれば、『昼間休ませる』という観点を外して、『夜宿泊させる』という観点で施設を選択する方がいいでしょう。
 
次回は、現場で待機せずに、車庫に戻ってきた場合を考えます。
 

 

【中小企業診断士/行政書士 高原伸彰】