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貸切バス・トラック 適齢診断は受けただけでは意味がない

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乗務員教育について

適齢診断を受けるタイミング

高齢になったドライバーさんは適齢診断を受けなければなりません。
適齢診断の内容は、加齢が運転に与える影響を数値するためのテストのようなものです。
システムが聞いてくる質問に答えたり、シミュレーションゲームのようなものをやることによって、ドライバーの現在の能力が数値化されます。

適齢診断は65歳になったら、66歳の誕生日までに1度受ける必要があります。
その後は75歳になるまで、3年に一度のペースで受診すれば結構です。
75歳になったら、76歳の誕生日までに1度受診する必要があり、その後も毎年受診しなければなりません。
 
75歳を過ぎるとドライバーとしての身体能力、認知脳能力の衰えが顕著になり、年々加齢が運転に与える影響が大きくなるので、毎年自覚を新たにしてもらおう、との趣旨です。

 

診断結果はデータで管理する

適齢診断を受診すると、その結果が本人及び事業者に通知されます。
事業者は本人から受け取った『事業者用の診断結果通知書』の内容をよく確認しなければなりません。

診断結果はそのままファイルするのではなく、エクセルなどを利用して一元的に管理できるようにしましょう。
『動作のタイミング』『注意の配分』など、点数化もされコメントもついていますので、それらが複数年にわたって比較できるようにデータ化しておくことが重要です。
 
機械が診断することですので、当然誤差もありますが、長期間に渡ってデータを比較していくと、加齢による衰えを視覚的に理解することができるようになります。

 
加齢による影響はドライバーのほとんどが感じる、極めて自然な現象です。
大事なことは、それを客観的に数値化して本人に自覚させることです。
 

良いところも悪いところも話し合うこと

適齢診断の結果がでたら、まず数値をデータ化します。
その上で、優秀である部分と改善が必要な部分を明確に把握します。
優秀である部分はしっかりと評価すべきですし、改善が必要な部分は一緒に解決法を考える必要があります。
 
この作業が国土交通省の求める『貸切バス運転者に対する指導及び監督の概要』の中にある、『高齢運転者に対する指導』です。
NASVAの事業者用の診断票には『優秀なところは褒めるように』書かれています。
これはとても大事なことですが、本当はもう一歩踏み込んだ指導を行うべきだと感じます。
 

例えば、『注意の配分が優秀』と診断されたとします。
注意の配分が優秀ということは、いろいろなところに目配りが効いた運転ができている、と判断できます。
このようにいい結果が出たときに大切なのは、その結果を褒めるだけではなく、なぜその結果になったのかを話し合うことです。
 
管理者「○○さん優秀だね。注意の配分がいいってさ。」
ドライバー「ありがとうございます。」
管理者「いろいろなところに目配りできてるってことだよね。普段どんなことに気をつけてるの?」
ドライバー「そうですね・・・」
 
このような形で、優秀なところを本人に理解させ、さらに一歩踏み込んで、自己分析させることが大事なのです。
この作業をめんどくさがらずに行うことによって、そのドライバーの優れた部分をさらにパワーアップさせることができますし、ドライバー本人の承認欲求も満たすことができます。

 
改善が必要な部分は一緒に解決法を考える必要があります。
人間だれしも褒められることは好きですが、指導されることは好きではありません。
褒める場合に必要だったテクニックは、このように指導、改善が必要な場合にも有効です。

改善が必要と判断された項目について、頭ごなしに指導するのは上手い方法ではありません。
この場合も褒める場合と同様に、『一緒に原因を探す姿勢』が大切になります。
 
管理者「○○さん、判断・動作のタイミングで点数が低くなっちゃったね」
ドライバー「おかしいな~。普段の運転は変わらないんだけどなあ。」
管理者「テスト、やりにくかったの?」
ドライバー「なんだか、今回は画面が見えにくかったんですよね。」
管理者「見えにくかった?メガネの度数合ってる?」
ドライバー「そういわれれば、ちょっと見えにくくなってるかもしれないな・・・」
 
こんなに簡単に解決する例はないと思いますが、肝心なことは『文句を言って指導する』のではなく、『なんで点数が低かったのか一緒に考える』ことです。
管理者が一緒に問題解決する姿勢を前面に出すこには、二つの大きな効果があります。
 
①指導の時間が、加齢を責められる時間ではなく、問題解決している時間になる。
②会社から大切に扱われている事実をドライバーが理解しやすい。

 

記録の残し方

適齢診断を受信させた後は、その後の教育に関する記録を残さなければなりません。
いろいろな貸切バス事業者と関わる中で、この記録について大きな勘違いをしてしまっている例が少なくありません。

『高齢運転者に対する指導記録』は社内でどのような教育をしたかを記録しておくためのものです。
この記録を有効に残すためには、3つの項目を記載しておく必要があります。
 
①診断結果(点数やコメントも含めて)
②どんな話し合いを行ったか(その結論も含めて)
③使用した教材
 
(例)
①動作の正確さ 48点 コメント
②前回よりも10ポイント低下した。
本人と話し合った結果、当日は腰痛があったため画面に集中できなかったとのこと。
腰痛について今後の通院などのスケジュールを話し合った。
③NASVAの診断票 腰痛に関する○○病院の資料

 
『高齢者に対する指導記録』でよくある勘違いが、「一点を注視しやすい傾向がありますので、注意しましょう」的な記録の残し方です。
『高齢者に対する指導記録』は対象となる高齢者に対する文書ではありません。
あくまでも社内の記録ですので、『どんな指導をしたか』『結果として何を得たか』を記録するものです。
勘違いしないようにしましょう。
※指導記録に『対象となった高齢者のハンコ』を押している事業者がありますが、これもナンセンスです。
中学校の指導記録に生徒のハンコを押しますか?

 

教育もPDCAサイクルで

適齢診断を有効に活用するようにしてください。
教育もPDCAサイクルで回すように心がければ無駄になりません。

★適齢診断の結果を受けて・・・
P停車時の車間距離を一車長空けるように心がける
D実際にやってみる
Cドラレコで確認してみる
A運転に余裕がでているので、さらに継続する

 
人間はある程度の年齢になると、誰でもいろいろな能力が低下してきます。
しかし、能力の低下を知恵や工夫で補うことができるところが人間のすごさでもあるのです。
 
管理者がドライバーと一緒に話し合って、足りない部分、欠けてきた部分を補い合いながら長く仕事ができるように工夫していきましょう。

【中小企業診断士/行政書士 高原伸彰】