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貸切バス 運賃料金の下限割れには二つの種類がある

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その他

国土交通省の新しい指針

国土交通省から手数料の扱いに関する新しい方針が示されました。
主に手数料率を明記することを要求する内容です。
具体的には、以下のアドレスから確認することができます。

 

手数料率の引受書への記載が義務化されます

結論から申し上げますと、手数料の額や料率を運送引受書に明記することが定められました。
義務化されるのは、最速でも令和元年5月です。(つまり来月)
それ以外の部分に大きな違いはありません。

今までは、手数料の額や料率のわかる書類を引受書の控えと一緒に保存するように指導されていました。
それが一段厳しくなって、運送引受書そのものへの記載が求められるようになりました。

 

事業概況報告書のPLにも手数料の別枠記載が必要

旅行業者やその他営業をあっせんしてくれた事業者に支払う手数料については、これまで事業概況報告書(損益計算書)の『その他(経費)』の欄に記載していました。
しかし、この部分についても、曖昧な記載を認めなくなりました。
 
具体的には、損益計算書の経費部分の一番下の『その他(経費)』の部分を二つに分けて、『その他(経費)』と『(支払)手数料』に分ける必要がでてきます。
※システムから事業概況報告書のPLを出力している事業者は、システムの改修が必要かもしれません。

この後でも述べますが、適正に支払われた手数料は『営業活動にかかる経費』として処理できます。
手数料を支払う事業者というのは、自社で営業マンを抱えて営業しない代わりに旅行代理店などに仕事を持ってきてもらうわけです。
 
つまり、旅行代理店をはじめとするエージェントに支払った手数料は、『交際費や人件費、広告宣伝費』に代わるものと考えて差し支えありません。

 

 

運賃料金の下限割れには2種類ある

下限運賃5万円の仕事があるとします。
※この事業者は『変更命令の審査を必要としない運賃料金を届け出ている』とします。
 
なにがしかの理由で、お客様からいただく運賃料金が5万円を割り込んだ場合に、俗に言う『下限割れ』が発生します。
しかし、通称『下限割れ』にも二つの種類あるのをご存じでしょうか?

乗務員の拘束時間が12時間で、途中の休憩が分割休息の特例条件を満たさなかった。
しかし、いつも仕事をいただいている学校からの仕事なので、無理やり中抜きをして下限5万円の仕事を4万円でやった。
つまり、『あらかじめ届け出た方法で計算しなかった』ケースです。
 
この場合に適用されるのは、道路運送法第9条の2台1項『運賃料金変更事前届出違反』です。
審査のいらない運賃料金を届け出ているにもかかわらず、決められた下限運賃を割り込んだ運賃料金で仕事をした
⇒つまり『変更した運賃料金の届け出をしていない』ことが違反と認定されているわけです。

 
しかし、下限を割った原因が手数料となると、ちょっと話が違ってきます。

下限運賃が5万円の仕事を、旅行代理店から手配してもらった。
旅行代理店にはいつもより多めの25%の手数料を要求された。
 
この場合は、『あらかじめ届け出た方法で計算しなかった』ケースとは、少し事情が違います。
なぜなら、運賃料金はあらかじめ届け出た方法で収受しているからです。
問題は、手数料の額(率)です。
 
この手数料が『法外である』と認定されたときに適用されるのは、道路運送法第10条『運賃又は料金の割り戻し』です。
運賃は適正に計算されているし、適正に収受されている。
しかし、『その手取り額(この場合は37,500円)では、安全を保つためのコストが賄えないのでは?』という疑いです。

 

 

都市伝説に巻き込まれないように

『手数料を引かれて1円でも下限を割ったら、すぐ60日車らしい。』
『手数料は20%まではOKらしい。でも、それ以上は違反らしい』

 
国土交通省から通達が出るたびに、こんな都市伝説が浮上します。

行政が事業者にとって不利益な決定をするには、必ず根拠となる法令等が必要になります。
慌てる前にまずそれを確認するようにして下さい。
 
上記のような噂が聞こえてきたときは、まず行政や我々のような専門家に問い合わせをして下さい。
そして、『その決定の根拠文書はなんですか?』と尋ねて下さい。

 

経費の構造にメスが入る

手数料の支払いによる『運賃又は料金の割り戻し』違反は、『運賃料金変更事前届出違反』に比べて、摘発する側にも相応の時間とコストが必要になります。
なぜなら、『法外な手数料の支払いによって安全に関わるコストが捻出できず危険である。』と判断されるためには、その事業者の財務分析が必要になるからです。

前にもお話ししたとおり、旅行代理店などに支払う手数料は『自社の営業活動を外注した経費』と考えられます。
本来なら、自分の会社で営業マンを雇用してやるべきことを外注した、と考えてよいわけです。
 
基本的に行政は事業者の経済活動に口は挟みません。
しかし、例外があります。
それは、利用者に不利益が起きる可能性がある場合です。
学校などはその好例で、不透明な経費計上によって利用者である子供たちに不利益がないように監視をしています。
 
バス会社の手数料が不適切で安全を損ねる可能性がある、と判断するためには、そのバス会社の財務を分析する必要があります。
経費の額に文句は言いませんが、経費構造にメスが入るわけです。
※社長の役員報酬が多くて会社が赤字でも文句は言われません。
しかし、手数料が多くて赤字の場合は文句を言われます。
 
この点については、またゆっくりとご説明します。

 

 

利益を確保できない仕事はやるだけ無駄

私は安全を担保するためには、積極的な投資が必要だと思っていますし、実際、投資をしなければ安全確保はできません。
投資をするためには、その原資=利益が必要です。
 
国土交通省がこのように手数率を明確するよう指導してくれるのは、むしろ貸切バス事業者にとって追い風となるはずです。
なぜ、このような措置をうまく利用できないのでしょうか?
 
インバウンド需要に合わせて、無理な仕事を受けるのは業界全体のためになりません。
20%の手数料に加えて30%の協力金など、まったく言語道断です。
そんな仕事ならやらない方がましです。

安全運行を確保するには、経営資源への投資が必要です。
経営資源はよく、『ヒト・モノ・カネ・情報』と言われます。
バス事業者にとって、もっとも大きな経営資源は、ヒト=乗務員他スタッフモノ=バスでしょう。
 
必要な資源に必要な投資をするためにも、適正な利益を得るように経営してください。
目先の売上に惑わされず。
3年前に多くの若者たちが、命にかえて教えてくれたことを忘れずに。
【中小企業診断士/行政書士 高原伸彰】