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貸切バス 運賃の下限割れ対策を考える

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監査・巡回について

貸切バスの運賃には上限と下限が存在する

近年になって、バスが絡むいくつかの大きな事故がありました。
これらの事故の原因は『過度な価格競争にあり、ルールの軽視』であると考えられました。

現在、貸切バスの運賃は『距離制』と『時間制』に分かれていて、これをMixすることで計算します。
日本全国の貸切バス運賃には上限と下限が設けられており、この範囲であれば特に認可をとる必要もなく設定することができます。


 

変更命令の審査を必要としない運賃料金

日本全国の運輸局が公表している『貸切バス運賃の上限と下限』は、各地方によって若干の差があるのもののその趣旨に大きな違いはありません。
例えば関東は小型バスの時間制運賃の下限は3,850円、大型バスの下限は5,310円と決まっています。
つまり、同じ関東圏内の貸切バスであれば見積書にはおおむねこの下限に近い数字がかかれていることになります。

小型、中型、大型という、とてもおおざっぱなカテゴリー分けで運賃が決まってしまう、今の制度を貸切バス事業者の皆さまはどう考えていらっしゃるのでしょうか?


 

問題になるのは『中抜き』

ある中学校の剣道部が地方大会に出場するとします。
朝5時に学校を出発して50㎞離れた試合会場に到着するのが7時。
この中学校が決勝まで残ったとすると、表彰式の終了は午後6時くらいになってしまいます。

会場に到着した午前7時から、表彰式が終了する午後6時までには、11時間の待ち時間があります。
現在の制度ではこの間も時間制運賃が発生しています。
なぜなら、会場近くの駐車場で待機している運転手さんにも人件費が発生しているからです。

 
新運賃料金制度の根幹をなすのは、『安全に対する投資を可能にする利潤の確保』です。
簡単に言えば、『ちゃんと儲けて、しっかりと安全投資をして下さいね』ということです。
しかし一方で、『少しでも安いバス会社に依頼したい』と考える消費者がいることも事実です。

距離はどんなルートを選択しても、大きく変わることはありません。
待ち時間についてもバス会社が決められるわけではなく、お客様(中学校の剣道部)の試合結果次第です。
では、それぞれのバス会社はどこでライバル会社と差をつけるのか。
 
それがいわゆる『中抜き競争』です。
つまり『待ち時間を時間制運賃の対象としない』で、全体の運賃を下げる対策です。


 

中抜きを可能にする条件(改善基準告示に照らす)

運賃の中抜きについては明確なルールがあり、それを逸脱するような解釈は認められません。
いろいろなところから都市伝説的な解釈が聞かれることがありますが、原則は変わりませんから、惑わされることのないようにしてください。
 
お客さまが観光に出かけていたり、先ほどの例のように試合をやっていたりしたとき、運転手さんは仮眠をとったり本を読んだり、ある程度自由な時間を過ごすことができます。
『じゃあ、この時間はお金かからないのね! だって、待ってるだけでしょ?』
いかにも消費者が言いそうなことです。

中抜きが可能となる条件については、以下の書面にわかりやすく書かれています。
Q23をご覧ください。
 
貸切バスの新たな運賃料金制度の Q&A
※中国運輸局ホームページより引用
 
これを読むと『待機中の運転手に、改善基準告示で言うところの休息期間が与えられればその時間は時間制運賃を取らなくてもよい』と書かれています。
逆に言うと、改善基準告示における休息期間が与えられないのであれば、『時間制運賃の中抜けは成立しない』と言えます。
 
【関連資料】
貸切バスの分割休息を詳しく解説します。(改善基準告示)
 
この資料にも詳しく書きましたが、『改善基準告示の休息期間』にはそれなりに厳しい条件があります。
単に4時間以上空いたら無条件でOKになるわけではありません。
注:改善基準告示は厚生労働省の管轄。貸切バス行政は国土交通省。
このねじれも、よくある『都市伝説』を生む原因になっています。


 

バスが一旦車庫に戻った場合は

貸切バスが駐車場で待機している間も時間制運賃がかかる理由は明確です。
『その場所で待機している理由はお客さまの事情であり、その責任はお客様にあるから』です。
お客さまの事情で『貴重な経営資源である』バスと乗務員を遊ばせておくわけですから、そのコストを客側が負担するのは、至極当然のことです。
⇒動いていないバスと乗務員を『貴重な経営資源』と考えられるかどうかが、実は経営者として大切なところです。

先ほどの例で、剣道の大会が50㎞も離れた場所ではなく、5キロ程度しか離れていない会場で行われていたとしたらどうでしょうか?
その程度の距離であれば、バスをわざわざ待機させておく必要もないので、一度会社の車庫に戻す選択肢があっていいのではないでしょうか?
では、この場合の時間制運賃はどう考えればいいのでしょうか?
 
『貴重な経営資源であるバスと乗務員を遊ばせた責任』がお客さまにある場合は時間制運賃を収受することが可能です。
しかし、バスと乗務員を一旦帰庫させることができるのであれば、そこから再び送迎に向かうまでの時間制運賃をカウントする必要はありません。
(下記の文書の2の①と②をお読みください。)
 
貸切バス運行間等における適正な運賃収受について(基本方針)
※中国運輸局のホームページより引用

 
この場合、試合会場から会社の車庫までの回送については『距離制運賃』『時間制運賃』の両方を請求する必要があるのは当然です。


 

財務力のある会社は独自運賃を

A観光のバスは古いけれど整備が行き届いていて故障知らずです。
会社の歴史も古いので、社屋などの固定資産もすでにおおむね償却済みだと考えます。
対して、B観光のバスは新しいけど整備していないので故障が多い。
まだまだ創業して5年なので、家賃も地代もそれなりに大きな負担になっています。
A観光の営業所と車庫は大都市から少し離れた場所にあり、B観光は大都市の中心部に営業所と車庫を持っています。

A観光とB観光を比べてみると、A観光の方が圧倒的に財務上のコストが低い、と考えられます。
『財務上のコストが低い=競争力がある』ということです。
つまりA観光の戦闘能力の方がB観光よりも高いと言えます。
 
しかし、旅客が多く集まる大都市部に近いB観光は『回送料金の安さ』でA観光を圧倒しており、同じ案件の見積もりでA観光はいつもB観光に負けてしまいます。

 
こんな場合にA観光ができることがあります。
運輸局が提示している『変更命令の審査を必要としない運賃料金』を届け出るのではなく、自社独自の運賃料金を設定して、届け出ることです。

 

原価計算は経営の基本

A観光は財務上のコストが低い会社です。
つまり『同じ運賃であれば、B観光よりも余計に利益を得ることができる』ということです。
逆に言えば、同じ利益を得るのであれば、『A観光はB観光よりも安い運賃で運行することが可能』だと言えます。
 
自社の実情に合った運賃を設定するには原価計算が欠かせません。
運賃に競争力を持たせるのであれば、原価計算をして自社独自の運賃設定をすべきです。
貸切バスの新運賃制度をリードされてきた名古屋大学の加藤博和先生もこう書かれています。

※名古屋大学 加藤博和先生 2017年3月27日引用
原価計算をきちんとやってほしい
・規制緩和以降、国から原価データの提出が求められなくなり、事業者の自主的に調べなくなった。
・しかしそれでは適正な運賃も分からないし、経費削減の検討もできない。
(製造業なら当たり前にやっている。)
・つまり、新制度運賃の1つの狙いは「原価計算の普及促進」
・安全確保、運賃水準透明化、経費削減といった効果
・下限割れ届け出による競争力確保も可能
 
【関連資料】
※以下から全文が読めます。
ぜひ一読してください。
貸切バス運賃・料金制度をなぜ守らなけらばならないのか?


 

自社の運賃は自社で決めたい

当社では『貸切バス事業者の原価計算』を積極的に推し進めてまいります。
正確な原価計算によって導き出されるコストに適正な利益を積み上げて、自社独自の運賃設定ができるようにお手伝いしたいと思います。
 
行政書士ではなく、中小企業診断士としての業務になりますので、行政書士法人ココカラザウルスではなく、株式会社付加価値ファクトリーとのご契約になります。
あらかじめご了承ください。

【中小企業診断士/行政書士 高原伸彰】