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貸切バスの原価計算の分析と結果の生かし方

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その他

原価計算を行って、会社のコスト体質がわかると、自社に適した運賃を計算することができます。
 
独自運賃が低めに出るというのは、とても良いことです。
それは、低い運賃で他社を出し抜けるからではなく、その会社のコストパフォーマンスが高いことを意味しているからです。
 
独自運賃が低めに出たことと、それを営業活動に利用するかは、別の問題です。
 

30社の原価計算でわかったこと

公示運賃に変更が加えられることが確かになってから、約30社の原価計算を行いました。
その中で、ある程度、この原価計算による独自運賃の出方の傾向がはっきりしてきましたので、ここでまとめておきます。
 

時間制運賃と距離制運賃の両方が良い結果になるのは少ない

原価計算が終わると、その数値を元に、国土交通省が指定する方式で、時間制運賃と距離制運賃を算出します。
こうして計算された運賃が、いわゆる独自運賃です。
 
これまでの原価計算の結果を見てみると、時間制運賃は公示運賃よりも2割ほど低めに収まったものの、距離制運賃が逆に2割くらい高くなってしまったもの、又はその逆など、どちらの運賃も良い結果が揃うケースはあまりありません。
 

その会社の仕事内容が独自運賃に反映される

例えば、送迎業務の多い会社は、時間制運賃が安めにでて、距離制運賃が高くなる傾向があります。
 
原価計算では、コストを大きく時間制7、距離制3程度に仕分けして、それぞれを昨年の実績時間数、距離数で除する(割る)ことで独自運賃を算出します。
送迎業務は、時間数は長いが、走行距離は短い傾向にあります。
 
つまり、その傾向がそのまま独自運賃に反映され、時間制運賃は安く、距離制運賃が高く算出されるわけです。
※割られる数字が同じで、割る数字が小さくなれば、結果は大きくなります。
 
送迎業務と逆なのが、いわゆる観光バスです。
観光バスの場合、時間数のわりに距離数が伸びるので、距離制運賃が安くなる傾向が強くなります。
 

複数の事業をやっている会社の方が強い

 
例えば、一般貸切と特定旅客、それに貨物をやっている会社があるとします。
結論としては、一般貸切だけをやっている会社よりも、複数事業をやっている会社の方がコストパフォーマンスが良くなる傾向にあります。
 
原価計算では、大きく分けて、二つのコストを計算します。
一つは、直接その事業に関わるコスト、直接費です。
バスの購入に係る費用(減価償却費)や、軽油の購入費用(燃料費)などがその例です。
このコストについては、貸切バス、特定バス、トラックと、それぞれを個別に計算すればいいのですから、数値は明確に算出できます。
 
一方、もう一つのコストは、間接費と呼ばれます。
このコストは、会社全体を維持するために必要なコストで、各事業が共同で負担し合う種類のものです。
会社の土地の賃借料や、水道光熱費、共通の事務員さんの給与などが、これにあたります。
 
貸切バス、特定バス、トラックと、3つの事業をやっていても、事務所の広さが3倍になったり、事務員さんが3倍必要になったり、つまり、単純比率で増加するわけではありません。
もちろん、少しは負担が増えるかもしれませんが、売上の増加と比べると、一般的には少ない増加で済むはずです。
 
つまり、単独事業であれば全額負担すべき間接費を、複数事業であれば別事業が一部負担してくれますから、コストが低く収まるわけです。

原価計算の生かし方

ここからは、原価計算の結果の生かし方を少しお話しします。
 
健康診断と同じで、原価計算も実施して結果を見ただけでは、なんの意味もありません。
原価計算の結果を利用して、どうすれば、良い結果を出せるようになるかを考えることが大切です。

事業のベストミックスを探す

時間制運賃、距離制運賃のどちらかが良くて、どちらかが悪い場合、その会社の仕事の種類(送迎なのか、観光なのか等)が関係している、とご説明しました。
 
このような例の解決方法は、事業のベストミックスを探ることです。
 
例えば、送迎業務に強みのある会社は、そこに安住せず観光に進出する。
観光に強みのある会社は、送迎業務にも手を伸ばしてみる。
 
コロナ禍でも元気だったバス会社の多くが、送迎業務を主としてしました。
送迎業務は確かに継続性が高く、安定していますが、一方で競争相手も増え、市場はレッドオーシャン化しています。
 
観光がブルーオーシャンだと言うわけではありませんが、経営戦略としては、今まで自社が得意としてきた分野以外を開拓することが、コストパフォーマンスを良くする手段の一つであることは間違いありません。

思い切って別事業に進出してみる

そんなに大がかりでなくて結構です。
トラック運送をやっている会社であれば、よくわかるのですが、帰り荷を探すような気持ちで、コストを分散する方法です。
帰り荷に多くの収益を求めず、行き帰りの燃料費、高速代が出ればいい、くらいの気持ちで別事業を少しずつ大きくしていくのです。
 
貸切バスだけをやっている会社であれば、貨物や福祉タクシーを始めてみるのはどうでしょう?
運転手さんを増やす必要がない程度からスタートすれば、間接費を増加させずに、収益だけを得ることができます。
その結果、会社全体のコストパフォーマンスも高くなるはずです。
 

間接費をそのままに売上だけを上げる

もっともチャレンジしやすい方法です。
直接費というのは、変動費と言うくらいですから、売上に(ほぼ)連動して高くなってしまいます。
 
しかし、間接費というのは、固定費にあたるので、売上に関わらずあまり大きく変化しません。
つまり、会社を維持するための間接費をそのままに、売上だけを上げることで、コストパフォーマンスを上げていくことが可能です。
 
売上を伸ばすことの難しさは理解していますが、大切なことは、間接費を上昇させず、できるだけ長く維持することです。
 

【中小企業診断士/行政書士 高原伸彰】