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原価計算に強い貸切バス会社を目指そう

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その他

新公示運賃の実施が10月1日から始まります。
 
コロナが一段落して、社会情勢は大きく変わりました。
燃料費は高騰、運送業を巡るその他のコストも大きく上昇しています。
このような情勢の中、公示運賃が、高くなる方向で見直されることは、貸切バス事業者にとって大いに歓迎すべきことと言えます。
 
一方で、20パーセントを超える値上げについて、既存顧客の理解を得るのは簡単な作業ではありません。
そのため、今を改革の好機と捉え、原価計算⇒独自運賃の道を探る事業者さんも多くみられます。
 
そんな状況の中、今回は、この1ヶ月で、おおむね35社の原価計算をしてきた中小企業診断士が、原価計算に強い会社の特徴を簡単にお話しします。

原価計算とは?

仮に、この記事を読んでいる貴方がラーメン屋さんを始めようと思い立ったとしましょう。
商売を始めるにあたり、ラーメン1杯の値段を決めなければなりませんが、どうやって決めますか?

コスト積み上げ式
原価計算の方法には、いろいろありますが、始める前のラーメン屋さんが最初にやるなら、やはりコスト積み上げ方式でしょう。
 
ラーメンを作るのには、様々なお金が必要です。
麺や肉、野菜の仕入れ、電気代、お店の賃借料、人件費など。
 
コスト積み上げ法では、ラーメンを作るのに必要なコストをできるだけ正確に積み上げていくことで原価を計算します。
 
積み上げたコストに、適正な利益を乗せて、それをラーメンの予定販売数量で割れば、簡単な値付けができます。

バスの場合も同じ

国土交通省が指定している貸切バスの原価計算も、基本的にはラーメン店のものと大きく変わるところはありません。

時間制運賃
✅人件費の8割
✅車両費(減価償却費)の5割
✅営業費の一部
✅営業外費用
✅適正利益
✅安全投資
 
ざっくりですが、このあたりの費用をすべて集計して、前年度の全乗務時間で割って算出します。
 
但し、人件費や車両費(減価償却費)などは、すべてかなり厳しい基準で補正を掛けてから計算します。
前年度の財務諸表の数値をそのまま入れるのではないので、勘違いをしないようにして下さい。
 
※車両の減価償却費を例にとると・・・
①会社の所有する全車両を、新車で購入したものと仮定し、合計金額を出します。
②対象会社の平均的な車両の使用年数と、法定償却期間5年の中間値で合計金額を割ります。
③物価デフレーターで補正します。
 
つまり、現在の財務諸表では、すべての車両の償却が終わっている会社でも、全てこの基準で補正されるので、費用が一気に大きくなる仕組みです。

時間制運賃
✅人件費の2割
✅車両費(減価償却費)の5割
✅燃料光熱費
✅修繕費
✅保険料
✅税金
 
時間制運賃の場合も、これらの費用をすべて集計して、前年度の全乗務時間で割って算出します。

原価計算に強いとは?

簡単な理屈ですが、原価計算に強い=運賃が低く出るということです。
 
もう一つ踏み込んで言うと、【自社のサービスを安く提供できる=コスパがいい】ということです。
こういう会社が、新公示運賃で営業できれば、とても大きな利益を得ることができます。
 
つまり、【原価計算=運賃を安くする】ことではなく、【原価計算=自社のコストを理解して改善する】と捉えるべきのです。

原価計算に強い会社になるには

35社の原価計算を行って、独自運賃の届出にまで進んだのは、たった3社です。
残りの32社は、何らかの原因があって、独自運賃が新公示運賃を上回ってしまいました。

独自運賃が高く(悪く)なる原因ベスト3
第1位 稼働率が低い
多くの会社さんが、稼働率の問題で目標を達成できませんでした。
 
①例えば、積み上げた時間制のコストが1,000万円だったとします。
②この会社の前年度の全乗務時間数が2500時間であれば、時間制運賃は4,000円となります。
③しかし、全乗務時間数が1000時間であれば、時間制運賃は10,000円に跳ね上がってしまいます。
 
距離制運賃にも同じことが言えるので、同じコストならば、距離数の多い方が距離制運賃は安くなります。
 
第2位 貸切バス単独事業者である
独自運賃の結果が良かった3社は、いずれも貸切バスと貨物、貸切バスと旅行業など、複数の事業を展開している会社でした。
 
理由は簡単で、コストの中でも販管費(間接費)は、各事業で案分して計上するので、各部門の費用負担がそれぞれ小さくなるのです。
 
一方、貸切バス専業の事業者は、会社のコストすべてを貸切部門で受け持つ必要があるので、どうしても結果が悪くなりがちです。
 
第3位 業態が特徴的である
時間制運賃はいい結果が出たのに、距離制運賃が公示運賃よりも高くなった。
逆に、距離制運賃は低く収まったのに、時間制運賃が良くなかった。
 
このような結果が出た事業者さんも相当数ありました。
 
このような結果が出る原因は、その会社の業態が特徴的で、そこに偏りがあるからだといえます。
 
例えば、企業や学校の送迎業務を中心に展開しているバス会社では、時間制運賃が安く、距離制運賃が高くなりがちです。
一方、インバウンドに代表されるような、距離を走る運行であれば、時間制運賃は高くなりますが、距離制運賃は安く算出される傾向が強くなります。
 
独自運賃は、時間制、距離制、どちらも公示運賃よりも安く出なければ変更するメリットがなくなります。
※どちらかが高いと、損益分岐点を計算しなければならなくなります。
 
この問題を解消するには、今現在、会社が頼りにしている業態以外の需要も開拓していく必要があるでしょう。

コストパフォーマンスの高いバス(トラック)会社にするには?

1.車両の稼働率を上げる。
 
2.別事業を展開して、固定費を各事業に分散させる。
 
3.同じバス事業の中で、現在と違うベクトルの仕事を探す(営業する)
 
『そんなこと、言われなくてもわかってるよ!』
って、叱られそうですが、このあたり前のことでしか、商売ってうまくなっていかないんですよね。
 
頑張りましょう。
 

【中小企業診断士/行政書士 高原伸彰】