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【旅客】【貨物】運輸安全マネジメントは甘すぎる(HACCPを例に考える)

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その他

マネジメントシステムは目的達成のための手段の評価

運輸安全マネジメントはその名のとおりマネジメントシステムの一種です。
マネジメントシステムとは、一定の目的を達成のために前進する手段を評価する基準のこと、と考えてください。

マネジメントシステムの仲間のご紹介
①ISO9000シリーズ14000シリーズ等
昔、一世を風靡したISOはマネジメントシステムの代表格的な存在です。
9000シリーズは品質のため、14000シリーズは環境保護のための基準です。
 
②ISMS
情報セキュリティの認証規格です。
会社が保有する情報の取得、利用、提供に関する自主規制、外部からのアタックに対する防御なども含めて、総合的に情報を守るためのマネジメントシステムです。
 
③プライバシーマーク
プライバシーマークは個人情報を保護することに特化したマネジメントシステムです。

 

PDCAが回っていてもいい会社とは限らない?

マネジメントシステムは、目的を達成するための手段(仕組み)の適合性を評価するためのものです。
変な言い回しですが、ここで大切なことは、『品質に関するマネジメントシステムを保有しているからといって、その会社の製品の品質が優れているというわけではない』ということです。

現在、話題になっているHACCPでご説明しましょう。
HACCPと言うのは、飲食店など食品を取り扱う事業者に求められる衛生管理の手法のことで、令和3年6月1日から食品事業者に例外なく適用されます。
 
HACCPでは、冷蔵庫や冷凍庫の温度管理から、鍋、フライパンなどの管理方法、まな板の消毒方法など、多岐にわたる項目を毎日チェックすることで、機能的な衛生管理を目指します。
HACCPも衛生管理という目的のための手段作りですから、その運用にはマネジメントシステムが利用され、PDCAサイクルを回し続けることで継続的な改善を続けていくことになります。

 

冷蔵庫の温度管理を例に考えましょう。
①温度チェックのタイミング
②温度チェックの頻度
③温度チェックの方法
④異常があった場合の措置
 
冷蔵(冷凍)庫の管理一つをとってみても、実に多くのチェックが必要であることがわかります。
 
しかし、ここで大事なことは、どれだけ冷蔵庫の温度管理をやったからといって、このお店が食中毒を出さないことの保証にはならないということです。

 

起こりうる危険の原因を一つずつ潰していく・・・

HACCPの続きを進めましょう。

マネジメントシステムの存在意義は、ある目的を達成するために実施される手段が適性かどうかを判断することです。
運輸安全マネジメントの究極の目標は無事故にあり、HACCPの場合も状況が異なるとはいえ、目標が食品に係る事故の防止である点で同じです。
 
マネジメントシステムの構築とは、これらの目標達成を邪魔する交通事故や食品事故の危険を想定して、それを防止するための方法を策定していく作業のことを言います。

 

唐揚げ定食のリスク分析

ある定食屋さんがあります。
試しに、ここで考えられるリスクを分析してみましょう。

★あるお店で『唐揚げ定食』が注文されました。
①食材を冷蔵庫から出す。
⇒冷蔵庫の温度管理の問題があります。
⇒鶏肉の消費期限の管理はどうでしょう。
 
②食材を切り分ける。
⇒まな板の衛生管理はどのようにすればいいでしょう。
⇒包丁は生ものと過熱後のもので分けて利用するのでしょうか?
 
③食材に下味をつける。
⇒ボールの衛生を保つには、どんな方法がいいでしょう。
⇒調味料をもみ込む際の衛生問題はどうやって解決しますか。
 
④調理段階(油で揚げる)
⇒中まで火が通ったかどうか、どうやって確認しますか。
⇒油の鮮度はどのようにチェックしていますか。

 

運輸安全マネジメントはとても甘い・・・

ファミリーレストランや居酒屋などの飲食業では、食中毒や異物混入の危険は非常に身近な危険と認識されて(怖がられて)います。
では、ここで質問です。
 
事業用自動車を運行している事業者さんは、飲食業と同様程度のリスク認識をしていると言えますか?

ある貸切バス会社の運輸安全マネジメントの公表事項の中から『前年度に講じた措置』を例にします。
【前年度に講じた措置】
・ドライブレコーダーを2台買い替えました。
・中型バスを1台購入しました。
・救急救命講習を乗務員全員参加で実施しました。
以上
 
たったこれだけ?
こんな内容でも巡回指導やセーフティを通過してしまうのが、運輸安全マネジメントの現状です。

 

運送業の事故は食中毒よりも被害が甚大?

1台のバス、1台のトラックの事故による被害は甚大になることがあります。
死者やけが人が複数でることもあり、飲食業における被害よりも大きくなることが予想されます。

運送事業者は、もっともっと真剣にリスク分析をする必要があります。
運輸安全マネジメントを現状よりさらに有効なものにするためには、上で書いた『唐揚げ定食のリスク』のように、運行における一つ一つのプロセスを机上で再現し、その中に隠れた『危険因子』を拾い上げることから始める必要があるでしょう。

 

★貸切バスの出庫場面を考えてみましょう
①エンジンをスタートして車庫を出発する。
⇒車体の下部を確認したか。
⇒指示書など必要書類のチェックは終了したか。
 
②車庫から一般道にでる。
⇒通学時間にあたっていないかどうか確認したか。
※通学時間にあたっている場合はどうする?
⇒左右の確認がしにくくないか。
※カーブミラーの設置を検討した方がいいのでは?
 
③乗車場所に到着する。
⇒停車場所は間違っていないか。
⇒先方の担当者がすぐにわかるようになっているか。
⇒乗車に対し、補助が必要な乗客がいた場合はどうするか。

 

PDCAはこうやって回す

運輸安全マネジメントを構築する際には、様々な場面を想定してチェックしていく作業が必要になります。
上記の②を例にとって、PDCAを回してみましょう。

②車庫から一般道にでる。
⇒左右の確認がしにくいのではないか?(問題提起)
P:複数のドライバーの意見を聞いて、実際に管理者が体験してみる。
⇒結果として、夏に樹木の葉が邪魔になることがあると判明
⇒簡易型のミラーを設置
 
D:実際に運用する。
⇒漫然と運用するのではなく、常に問題点がないか考えながら運用する。
 
C:簡易型のミラーでは死角があることが判明した。(臨時監査会議)
 
A:代表者に報告し、改善要求。(臨時マネジメントレビュー)
その後の行政との話し合いにより、カーブミラーの設置承認。

 
『車庫から車道に出る』、という1点を例にしただけでもこれだけの問題が提起され、問題があれば改善することができます。
事業用自動車の事業者さんは食品事業者を見習って、場面場面に応じた細かいリスク分析を行い、より有効性の高い運輸安全マネジメントを運用するように心がけてください。
 

【中小企業診断士/行政書士 高原伸彰】