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貸切バス 手数料の支払いで下限運賃を割り込んだらどーする?(原価計算の話)(4)

2020年3月10日05時46分

この記事を読むのに必要な時間は約 8 分です。


前回は、数ある費用の中から営業費を仕分ける方法について考えてきました。
そして、人件費と車両費以外については、ほぼ実際の数値をデータとして利用できるのでした。
※『デフレーターの数値を掛ける』をいうことだけ覚えておいていただければ結構です。
 
今回は、ちょっとややこしい『人件費』と『車両費』の補正方法を考えていきます。

人件費の補正をやってみよう

人件費は営業費の中でも、その多くを占める重要な費用です。

乗務員の人件費は適正でなければ安全を確保できない、との発想から厳しく補正されます。

補正の方法の具体的な内容は、以前に書かせていただいた通りです。
 
人件費の補正
乗務員の人件費については、以下のように計算し直します。
①各運賃ブロックの平均賃金と自社の乗務員の平均賃金を比較します。
※たとえば、関東ブロックの場合は、516.9(千円)
 
②もしも、自社の乗務員の給与が平均賃金より低い場合は、以下のとおり補正する。
【[自社の乗務員の平均給与]+[関東ブロックの平均賃金]】÷2×[乗務員の人数]
 
③あまりない例だと思いますが、もしも自社の乗務員の給与が平均賃金よりも高い場合はそのままで結構です。
 
④上で算出した人件費に法定福利費をプラスして終了です。
※実際には、人件費も人件費デフレーターで現在の基準に補正しますが、今の段階ではあまり気にしなくて結構です。

 

安全のためには正規雇用のフルタイム

事業用自動車の乗務員は『正規雇用のフルタイム』が望ましいと考えられています。
つまり、他でアルバイトをするようなことがなく、生活の糧をその一つの仕事から得ていることが大事だと考えるのです。
 
そのような考え方がされていることは、法令を読んでも明確です。

皆さんがよくご存じの『道路運送法』に、お馴染みのこのような文章があります。
 
第三十六条 旅客自動車運送事業者(略)は、次の各号の一に該当する者を前条の運転者その他事業用自動車の運転者として選任してはならない。
一 日日雇い入れられる者
二 二月以内の期間を定めて使用される者
三 試みの使用期間中の者(十四日を超えて引き続き使用されるに至つた者を除く。)
四 十四日未満の期間ごとに賃金の支払い(略)を受ける者

 
安定的な雇用が安定的な賃金を生み、安定的な生活が保障され、結果として安全な運行に寄与する、と考えられるわけです。

 

パート乗務員が多いと不利になる?

原価計算における人件費の計算方法では、パート乗務員が多い会社さんは原価計算において少し不利になるようになっています。
例を挙げて検証してみましょう。

▶C観光 乗務員5名(車両5台) 
すべてフルタイムの正社員
平均給与 40万円
 
▶D交通 乗務員11名(車両5台) 
フルタイムの正社員は2名、それ以外はパートタイムの高齢者8名
正社員の平均給与 40万円 パートタイマーの平均給与 15万円
 
※地域は関東とし、平均給与50万円でシミュレーションします。
———————————————————–

①C観光の年間人件費を計算します。
(40万円+50万円)÷2×5名×12ヶ月=2,700万円
 
②次にD交通の人件費を計算します。
D交通の場合は最初にこの会社の平均給与を出します。
(15万円×8人)+(40万円×2人)÷10人=20万円
その後は同じです。
(20万円+50万円)÷2×10名×12ヶ月=4,200万円
 
パートタイマーの多いD交通は、正社員の多いC観光よりも人件費が1.5倍になるという計算結果になります。
 
つまり、原価計算における人件費率を下げるためには、できるだけ正規雇用の乗務員を増やして、一人当たりの支給額を地域平均に近づける方向が正しい、ということになります。

 

車両を手に入れる方法は二つ

人件費の次に行うのは、車両に関する原価の計算です。
車両に関する原価というは、車両本体の確保の問題です。

車両を取得するには、大きく二つの方法があります。
一つは、購入すること。
そして、もう一つは借りることです。
 
車両を購入した場合は、その費用を数年から5年くらいで分割して計上します。
この計上方法のことを減価償却と言います。
減価償却がよくわからない場合は、以下のような考え方でも構いません。
 
①銀行から1,200万円を借りて、新車のバスを購入した。
②銀行には1,200万円を月づき20万円の60回払い(5年ローン)で返却する。
③この返却するお金を減価償却という名前で費用計上する。
 
リースについては、とても簡単です。
毎月、決まったリース費用が請求されてきますので、そのままリース料の名目で費用計上します。

 

損益計算書には、借入金の返済を記載する欄がありません。
運転資金のために1,200万円借りて、毎月20万円ずつ返済していたとしても、それを損益計算書に記載することはできません。
 
なぜなら、借入金の返済は費用にはあたらないからです。
しかし、借入金で購入した車両は費用として計上することができます。
 
1,200万円の車両の価値は5年程度の時間をかけて、ゆっくりと減少していきます。
その減った価値を減価償却という科目で計上していくわけです。

 

車両はすべて新車で購入したことにする

今回の原価計算においては、車両はすべて新車を購入した形で補正します。
多少、それぞれの会社さんの特性も出ますが、車種と台数が同じであれば、おおむねどこの会社が計算しても同じような数字になるはずです。

車両費の補正
①まず車種によって基準の新車価格が決められています。
大型 40,737(千円)
中型 30,683(千円)
小型  7,017(千円)
 
②自社の車両の平均使用年数を調べます。
1台のバスを10年以上使用する会社もあれば、5年ごとに更新する会社もあると思います。
自社の平均的な使用年数を調べます。
 
③では計算してみましょう。
※大型車の場合
(台数×40,737,000円)÷{(平均使用年数+法定耐用年数)÷2}=年間の減価償却費(費用)
 
同じようにして、中型車、小型車の費用も計算します。
それらをすべて加算して、物件費デフレーターを掛けた数値が、貴社の年間の車両費です。

 

長く乗るのは悪いこと?

年季の入った車両を使って利益を出すのも、一つの経営の手段です。
償却の終わった車両は修繕費くらいしか特別な費用がかかりませんから、下限運賃で運行しても十分においしい利益が出るはずです。
 
しかし、今回の原価計算においては、このような経営手法は少し不利になってしまいます。

現在保有する車両がすべて償却済みであった場合、車両の費用負担はゼロです。
それが、この原価計算においては、すべて新車を導入した形になりますから、一気に収益構造に変化が出てきます。
 
古いバスを大切に使う美学と、最新の安全装備を搭載した車両への切り替えとの比較になりますが、行政サイドの考え方を代弁すると。誰が運転しても、適切な運行をする可能性が高い、安全装備を搭載した新型車両への定期的な更新が求められていると言っていいでしょう。

 
今回は、人件費と車両費(減価償却費)を見てきましたが、いかがでしたか?
行政サイドの考え方として、安定した雇用と適切な車両の更新が求められていることが明確にわかりました。
 
自社のポリシーや経営理念は大事にした上で、それでも『安全のためにできることはこういうことなんだ』という理解をしていただきたいと思います。
 
次回はちょっとむずかしい、適正利潤と安全運行経費について考えます。
 

【中小企業診断士/行政書士 高原伸彰】

 

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